シンガポールの古いHDBは政府が改装費用の9割を負担してくれる。そんな事を友達から聞いたのが約3年ほど前。当時は全改装済みのシンガポール北西に位置するHDBに住んでいたので我関せずという思いでした。
しかし昨年11月、半分改装済みの現在の古いHDBに引っ越してきて、その政府補助金出る改装が他人事ではなくなりました。
引っ越した直後、オーナーには「ここは3月ぐらいトイレの改装がある」と説明を受けていたのです。「Ok can!所詮トイレやろ?」と完璧にナメてかかってたのですが、改装が思いのほか辛かったのです。今回は改装していた時の生活を振り返ろうと思います。誰の役にも立たないただの自分の記録です。
HDB改装の補助金が出るHIPプログラム
シンガポールの公団住宅であるHDBの正式名称はHOUSING & DEVELOPMENT BOARD。日本語的に訳すなら住宅開発委員会。金持外国人が住むコンドミニアムと比較されて、貧乏人が住むアパートであると認識されちなHDB、しかしてそのサポートは手厚いのか。
ヒップ(HIP)プログラムの概要を見ていこう(発音はヒップなのか知らんけれども)。シンガポール政府のHDBのサイトにアクセスすると、今住んでいるユニットのオーナーが利用してるであろうHIP(Home Improvement Programme)の概要が載ってました。サイトによれば一般的に補助対象のHDB&概要は以下のとおり。
・1986年以前に建設された改装などがされてないHDB
・必須改装、オプション改装、シニア改装(EASE)の3つからなる
・ブロックがこのプログラムに賛成してないといけない
Home Improvement Programme (HIP) | HDB InfoWEB
ユニットの大きさによって負担率が変わるみたい。
タイプ | 1~3部屋 | 4部屋 | 5部屋 | 高級 |
負担率 | 5% | 7.5% | 10% | 12.5% |
負担費用 | $630 | $945 | $1,260 | $1,575 |
ちなみに、シニア改装(EASE)は年配の方々のプログラムで、段差とかトイレの手すりとかバリアフリー的な改装のようだ。
お世話になってるHDBの改装の費用
自分が現在住んでいるHDBのオーナーは独身ローカル男性。とは言っても、まだ若いのでシニア改装は対象外。超ミニマリストかつ倹約家なので必須改装しか希望していないと思われる。
その証拠に改装費用いくらなのか聞いたとき「本来なら1万$くらい掛かるんだけど、SGD600.00だからタダみたいなもんなんだ」と言ってた。ユニットの大きさは3部屋なので負担率は5%で費用はSGD630.00でどんぴしゃだ。
ほぼ自分の一ヶ月分の家賃じゃないか。コモンルームの入居者の家賃でできる改装。どんだけ安いねん。 では、SGD630.00の改装について見ていこう。
改装前のトイレ:ビフォーア
オーナーは綺麗好き&ミニマリストだから、物もないし清潔。と言う事もあるし普段はマスターにあるトイレを使っているので、ほとんど使われていない。
床もこの通り。綺麗なもんです。これ本当に改装が必要なのか。強いていうなら排水溝のところが汚いくらい。
しかし問題が一つあった。それはシャワーの勢い。水がチョロチョロで毎回シャワーにすごく時間が掛かかっていた。
改装スタート当日:過酷な改装中
仕事中にオーナーからWhatsappメッセージが入った。見るも無惨になったトイレの様子が送られてきた。
かわいそうなトイレ、いや便器・・・の残骸。今までありがとう。
ユニット内の様子。すでに改装済のリビングスペースもこんなあり様に。
家に帰ってきてもこのままである。ここでは絶対にくつろげない。床が汚すぎてペンキの匂いがすごいのだ。埃もひどい、ホコホコでコナコナな毎日。もちろん共有スペースも土足。ぜったい身体に悪そう。
以前、引っ越し記事で詳しく書いたけど、2ルームのユニットな上にオーナーが殆どおらんという事で決めたこの物件。普段から週2、3くらいの割合でしか、このユニットに戻ってこないオーナーも勿論の家族宅に避難。
しかし、避難場所のない自分は耐え抜いた。唯一トイレがアタッチされてない自分の部屋のみが改装前の秩序を保っていたし、こんな有様になるなんて予測してなかったら準備をしてなかったのだ。
そう、自分の部屋だけは問題なかったのだ。自分の部屋のだけは・・・。そこで疑問が出てはきませんか。
シャワーとトイレはどうするの?
これが過酷だった。トイレ&シャワーは1階のボイドデッキに仮設されたものを使う必要がある。これが、その仮設トイレである。
4つの仮設トイレ兼シャワールームが設置されていて、向かって左2つが男性用、右2つが女性用である。このブロック全体のトイレが同じように改装されるので、もちろん4つじゃ足りない。特に早朝の6〜8時、夕方の5〜8時は凄く人が混む。2〜3人分待つのは必須。
ちなみに中身はこんな感じ。この凄まじさ、分かるかね?
10日間、トイレに行く時も、シャワーを浴びるときも、これ使うねん。きつくない?
繰り返すけど個室は4つ。男女別だから1ジェンダーに2つ。設置当初こそ、みんなこの男女の区別をしっかり守っていたけど、3日目くらいには「時間食うだけなのに空いてる個室が、性別が違うという理由だけで待つのなんて馬鹿じゃないの、頭おかしいの」みたいな感覚になってくる。それは自分だけじゃなかったんだろう。
ある日、自分が男性用個室から出たあと、アンティー(おばちゃん)が「Sorry Yah(悪いねぇ)!」と言いつつ男性用個室に入っていった。
男性用個室が2つ使われていて、女性個室が2つ空いている時、男性用個室が空くのを待っていると、近くに座っていたアンティーが声を掛けて来た。
アンティー「Use this one ah(こっち使いなさいよ)!」
その日から、自分の中でのこの個室の男女別の区別がなくなった。ちなみに女性用個室の中身は男性用のものと何も変わりない。なぜたった4つしかない個室が男女別にされているのか甚だ疑問だった。
住人の露出度も高くなっていく
前々回はシンガポールのルールについての現実を紹介したけど、1つ書き忘れていた項目として、部屋内でも裸になっていけない、という情報がありました。この情報もネットで目立ってる(1つだけ載せておきます)。
シンガポールでは、公共の場から見える所で裸になることを禁止しているため、例え自宅であっても外から見える窓際などに裸でいると近所の人に通報され、2000Sドル以下の罰金もしくは3ヶ月以下の禁固、またはその両方が科せられるという。
断言しよう、自分はこのルールを毎日破っている。基本ほぼHDBに一人暮らし状態(誰かいても100%、10歳くらい年上の男性オーナー)である自分は、シャワーを浴びたあと、ほぼ素っ裸で部屋に戻る習慣がついてしまっている(シャワー横に小さい窓があるからそそとから覗ける)。
それだけに個室内で着替えも済ませないといけない改装中の10日間は辛かった。最初こそとりあえず上下服を来て個室から出るものの、3日もたてば上半身裸でバスタオルで上半身を隠しながら改装中へのユニットへ戻るスタイルとなる。
保守的と言われるマレー系の人たちも、個室が少ないためか、お父さん、お母さん、子供(幼稚園年少くらい)が、まとめて1つの個室に入って一気にシャワーを終えるというスタイルに。個室からすっぽんぽんの子供が出てきて母親が子ども身体を拭いているような場面もあった。子どもの性別が女でもお構いなし。そりゃ、個室の中で服を着せるのは一苦労だろうなと思った。
他の場所へ避難する人もいる
改装期間の中日。もちろん改装中は別のところに引っ越す人もいるらしいが相当数の人が居続けていたと思う。実際この時期、約1年以上ぶりにあった友達(毒舌なアラレちゃん)に「Airbnbで避難したらいいじゃない、馬鹿じゃないの?」と提案(馬鹿に)されたけど、既に前半は過ぎていた。
たかだか数日のマシな住居環境を確保するために、いちいちプチ引っ越しみたいなこと面倒くさくてできるか。そんなこんなで最後まで耐えることを決意。
真ん中の時期の様子はこんな感じです。コナコナです。
完全に廃墟と化したトイレスペース。
その次の日のトイレ。
これが具体的なプランです。
そして耐えること5日間。とうとう御トイレ改装が完了した。
改装フィニッシュ日:アフター
待ちに待った終了日。御トイレは、こんな風にできあがりました。少し殺風景かな。
しかし、改装直後だけあって綺麗になっておる。手すりまでついてバリアフリー感もでてある。この住居のオーナーも20年以上は必要ないだろうけど。
気になっていたシャワーのチョロチョロも、ビンビンになったとまではいかないけど、想像以上に改善されました。
しかし、そのあと我々を待ち受けていたものは、コナコナでグチャグチャになったユニットの掃除。
モップを何度掛けても汚れが取れない。毎日3、4回くらいぞうきん掛けしました。オーナーも綺麗に好きだから、そこらへんは徹底してます。そしてキッチンも今はなんとか元通りの状態に。
トイレは綺麗になって使いやすくなったけど、家賃も上がるわけでじゃないしラッキー。今だからそう思えます。
全体的な感想
今でこそシンガポールは清潔な国なんて言われるけど、最初から綺麗だったわけじゃない。この国は建国してやっと50年余りで昔は裕福な国でもなかったから。
現在ある程度の年齢で、綺麗なユニットに住んでいて、豪華な生活をしているシンガポール人。そんな人たちも、昔はこういう改装を乗り越えてきたのかな。熱くてエアコンもなくて、今のように整備が整ってなくて、トイレも綺麗じゃなかった時代。大変だったにちがいない。
もちろん、一定以上の金持ちはホテルを宿を抑えたりして過ごしたのだろうけど、急発展した国だけに昔から金持ちだった人なんて一握りだろう(くわしくは全然調べてないけど)。
日本の家庭に生まれて、物心ついた時には既に新築に住んでいて、何不自由ない住居環境で育ったことは、世界的に見てすごくラッキーで感謝すべき事なんだ。今回の改装を通して、それが実感できました。不衛生な環境でトイレを新しくしてくれたワーカーさん達にも感謝しました。