日本ではよく「お客様は神様である」などと言う人がいるが、とんでもないと思う。そんな事を言い続けるからみんなのストレスが貯まるんだ。客は「ただの消費者」であって、神様などではない。
サービス要求度の高い国民とサービス要求度の低い国民
当方、勤務しているのは在シンガポールの外資系企業だが、基本的に普段は日本人の顧客の相手をしている。しかし、稀に日本人以外の相手をすることもあり、様々な国の人々を相手してみて感じたことがあるので、今回はそのことを伝えたい。
仕事内容について、具体的なことは伏せるが、電話の最中に答えらない質問を客にされて、その場で調べて回答しないといけないときがある。そんな仕事とだけ言っておく。
電話越しの客が日本人、イギリス人、アメリカ人などの先進国出身である場合、調べものをして待たせている最中に「まだか?」「早くしてくれ!」ということを、ものの数分後に確認してくる傾向が強い。一方、フィリピン人、インドネシア人、インド人などの途上国出身の客たちは、電話越しでこちらが長時間待たせていても殆ど文句を言わない。それどころか長時間待たせていてこちらが謝ると、「問題ない、大丈夫だよ」「時間取ってくれていいよ」という優しい返事が返ってくることも多い。
つまり、サービス提供側からすると、先進国の客はクレーマーとまではいかなくても「鬱陶しい客」で、途上国の客は「優しい客」なのだ。
どうしてこのような差が生まれるのだろうか。
答えはこんな風にまとめられると思う。
先進国 = サービスの質が高い = 国民のサービス要求度が高い
後進国 = サービスの質が低い = 国民のサービス要求度が低い
質の高いサービスはお金で買うもの
自身はシンガポールに住んでいるので、現地のサービス事情は肌に感じて分かっている。シンガポールのコンビニ店員はレジの会計直前までスマホを弄っていたり、有名なインド系の巨大ショッピングモールのレジ打ちは常に椅子に座っていたりする。シンガポールに来たばかりの頃は、そういった風景に非常に驚いたが、今はもう慣れた。
ここで強調したいのは今では「これらの店員の態度に対して別になんとも思わない」ということだ。だって、コンビニやショッピングモールに行く目的は「物を買うため」だけであって、店員に素敵な接客をしてもらうためではないから。
別にシンガポールの全ての店のサービスレベルが低いという訳でもない。高級ブランド店や高級レストランでは日本のサービスに負けず劣らずのところも多い。なので少しセレブ気分を味わいたいのであればそういう高級店に行けば良いだけの話。お金を払えば良いサービスを受けることができるのだ。
高い質のサービス = お金で買うもの
質の高いサービスを提供し続けることの弊害
しかしながら日本ではそうはなっていないのが現状。日本では一般レベルのレストランでもコンビニでも、世界的に見ると五つ星レベルのサービスが提供されていると思う。
「安くて質の高いサービスで凄くいいじゃないか?」と思うかもしれないが、この現象には多くの日本人が気づいてないと思われるデメリットがある。「目に見えない従業員(日本人)のストレスの蓄積」と「日本人のサービス要求度の上昇」だ。
サービス提供側はミスを許されないという風潮が止まらない
以前、とある掲示版のスレッドでドトールコーヒーの店員が、客にオーダーの間違いを指摘されて舌打ちをした事に対して、その客(スレッド主)が文句を書いているのを見つけた。
その内容に対して「店長呼び出して謝らせろ」とか「その店員死ねばいいのに」などといったスレッド主を擁護する書き込みがあまりにも多かったので驚いた。自分が「店員さんも人間なんだし間違えることもある。機嫌が悪かったのかもしれないし、そりゃ思わず舌打ちしたくなることだってあるでしょう?」と書き込むと案の定、スレッド内で猛バッシングを受けた。
そして、スレッド内で店員さんに向かっていた矛先は、今度は自分に向けられたのだ。
ある程度、予測も覚悟もできていたので想像以上にショックを受けることはなかった。代わりに、こうして自分に対して、攻撃してくる人達も、仕事でサービスを提供する側としてストレスを貯めているんだろうと想像できた。高い給料をもらっているのならそれでも良いのかもしれない。ストレスをためる価値はあるだろう。だけど、数多くのバッシングコメントを書いてくる人達の全員が高給取りだとはどうしても思えなかった。
あのスレッドのコメントを見て、きっとスレッド主は「やはり自分は正しかった」と思っただろう。そしてスレッド見てコメントをした大多数の人も、その意見に共感したと思う。
こうして「お客様は大切に扱われて当たり前」だという認識が彼らの中で再確認されていき、「もっと安くて質の良いサービスを。サービス提供側がミスをするなんてありえない。だってプロなんだから・・・」とみんなが思うことで、日本人全体のサービス要求度が高まっていく。
ついでに、よくあるような「我々は常にお客様を第一に考えています」みたいな、ありきたりな企業の宣伝なども、公共電波を通して伝えられ、その傾向に拍車が掛けられる。
とどまることを知らない日本人のサービス要求度
経済学では「限界効用逓減の法則」という法則がある。簡単な例を挙げると、お腹が空いている時の一杯目の牛丼はとてもおいしいが、二杯目、三杯目となるにつれて、満足感が小さくなっていく法則だ。
この法則を空腹で牛丼を食べる例ではなく、よいサービスを受けてうれしい気持ちになる例で考えるとどうなるだろうか?
たまに高いお金を払って受ける五つ星サービスは凄く満足度が高いけど、毎日毎日普通の価格で五つ星サービスを受けざるを得ない日本では、五つ星サービスが当たり前のこととなり、サービス要求度だけがどんどん高くなっていくだろう。
そして企業はさらに高いレベルのサービスを提供するため、従業員を酷使し、従業員のストレスが更に蓄積されていく。ストレスが蓄積された従業員はストレスを発散するため「客」としてクレーマーになったり、ネット上で他人を攻撃したりする。
どこまでサービスの質は上がり続け、日本人のストレスはたまり続けるんだろうか。今の時代に「我が社は顧客満足度を全く重視しません」と唱える企業が出てきて注目されたら、この流れに歯止めがかかるだろうけど、まずそんな事は起きないだろう。